山陰亭

原文解説口語訳

『菅家文草』03:198

近曾、有自京城至州者。   近曾ちかごろ京城けいせいより州にいたる者り。
誦書一絶云、        一絶を書きみてはく、
「是越州巨刺史       「れ越州の巨刺史きよしし
 秋夜夢菅讃州之詞也」。   秋夜に菅讃州さんしゅうを夢むるのことばなり」と。
予、握筆而写。       、筆を握りて写せり。
写竟興作、聊製一篇、    写しをはりて興り、いささか一篇をつくり、
以慰悲感。         もつて悲感をなぐさむ。

北山南海隔皇城  北山南海 皇城くわうせいへだ
煙水蒙籠夢裏情  煙水蒙籠えんすいもうろうたり 夢裏ばうり こころ
時節暗逢流涙気  時節 ひそかに逢ふ 流涙りうるいの気
州名自有断腸声  州名しうめい おのずと有り 断腸だんちやうの声
莫因道遠称孤立  道遠きにりて 孤立こりふ すと称することなかれ
嫌被人知会五更  人に知られて 五更ごかう に会ふことを嫌ふ
若使神交同面拝  し 神交をして とも面拝めんはいせしむれば
不辞夜夜冒寒行  辞さず 夜夜やや寒きををかして行くことを

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口語訳

最近、都から讃岐に来た人がいた。
彼は絶句一首を書き詠じてこう言った。
「これは越前守えちぜんのかみ巨勢文雄こせの ふみお殿が
 秋の夜に讃岐守菅原道真殿を夢に見て詠んだ詩です」
(そこで)私は、筆を手に(その詩を書き)写した。
写し終えると感興が湧いたので、詩一篇を作り、
悲しい気持ちを静めた。

(越前国のある)北陸道ほくりくどうも(讃岐国のある)南海道なんかいどうも 都から離れ
もやのかかった水辺はぼんやりとかすみ 夢の中で逢う心境になる
(秋という)時節柄 涙を誘う気配が 知らず知らず訪れ
讃州さんしゅうという国名には 自然と(惨愁さんしゅうを想起させる)悲痛な響きがある
遠路ゆえに 一人きりなのだと言わないで欲しい
夜更けに会っていると 人に知られることが辛いのだ
もし心の交わりでもって 一緒に会うことがあるのなら
寒さを突いて 毎晩逢いに行くことをいとわないだろう

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