山陰亭

原文解説口語訳

『菅家文草』10:629/『本朝文粋』05:118

辞右大臣職第一表  右大臣の職を辞するの第一表

臣道真言。         臣道真まうす。
伏奉今月十四日詔旨、    伏して今月十四日の詔旨せうし を奉ずるに、
以臣任右大臣。       臣をもつて右大臣に任じたまへると。
仰戴天慈、不知所措。    天慈てんし 仰戴ぎやうたいし、く所を知らず。
〈中謝〉          〈中謝〉

臣、            臣、
地非貴種、家是儒林。    地は貴種 きしゆあらずして、家は儒林じゆりんなり。
偏因太上皇往年抜擢之恩、  ひとへに太上皇たいじやうくわうが往年抜擢の恩にり、
自至諸公卿今日昇進之次。  おのづからもろもろの公卿が今日昇進のついでに至る。
無寝無食、         ぬることく食すること無く、
以思以慮。         以て思ひ以ておもんはかる。
人心已不縦容、       人心すで縦容しようようせず、
鬼瞰必加睚眥。       鬼瞰 きかん必ず睚眥がいさいを加へん。

伏願、陛下、        伏して願はくは、陛下、
高廻聖鑑、早罷臣官。    高く聖鑑せいかんめぐらし、早く臣官をめたまへ。
非唯不奪志於匹夫、     ただ志を匹夫ひつふ に奪はざるのみにあらず、
亦復得従望於衆庶。     亦復また望みを衆庶しうしよに従ふことをんとす。
不堪懇款屏営之至、     懇款屏営こんくわんへいえいの至りにへず、
上表以聞。         上表以聞じやうへういぶんす。
臣道真、誠惶誠恐、     臣道真、誠惶誠恐せいくわうせいきやう
頓首頓首、死罪死罪。    頓首とんしゆ頓首、死罪死罪。
謹言。           謹んでまうす。

 昌泰二年二月廿七日     昌泰二年二月廿七日
 正三位守右大臣       正三位しゆう右大臣
 兼行右近衛大将       兼行けんぎやう右近衛大将うこのえのたいしやう
 臣菅原朝臣         臣菅原朝臣 あそん

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口語訳

右大臣の職を辞退するひょう、第一表

臣道真申し上げます。
伏して今月十四日のみことのりの主旨を承りますに、
わたくしを右大臣に任じられるとのことでした。
帝から慈愛をたまわり、(恐縮のあまり身の)置きどころもございません。
〈中謝〉

私は、
名家の出ではなく、学者の家に生まれました。
(しかし)ひとえに太上天皇だじょうてんのう(宇多上皇)が過去に抜擢された御恩により、
おのずと数多の公卿が現在昇進する(高い)地位に至りました。
(しかし、それゆえ)安眠できず食ものどを通らず、
思い悩みひどく憂えております。
(この状況を)もはや人々は許さず、
必ずや鬼神は見てにらむでしょう。(天罰が降るに違いありません。)

どうかお願いです、陛下、
(現状を)御高覧頂き、すぐに私の(右大臣の)職を罷免 ひめんして下さい。
(それは、)ただ(私のような)小人物の意思を変えさせないだけでなく、
同時に万民の希望に沿うところでございます。
(我が)真心の不安の極みに耐えられず、
表を奉って申し上げる次第です。
臣道真、誠惶誠恐、
頓首頓首、死罪死罪。
謹んで申し上げます。

 昌泰二年二月廿七日
 正三位守右大臣
 兼行右近衛大将
 臣菅原朝臣

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