山陰亭

深沢徹「大江の家のモノガタリ」『中世神話の煉丹術』人文書院 1994

 国文学の専門家が書いた研究書なので、正直言って難しいと思います。しかしこの人の題名のつけ方はいつも人を絶句させます(過去には問答体の論文! なんてのもありました)。平安時代の中でも院政期はなかなかけったいな時代ですが、いい勝負してます。
 中身もすごい。院政期の学者、大江匡房おおえのまさふさの作品を材料に当時の社会情勢を読み取ろうとするのですが、出てくる用語からして漢文学の皮をかぶった社会学です。

 今回紹介するのはそのうちの書き下ろしで、大江氏の優位性を示すために匡房が始祖伝承を捏造したという話。匡房は大江氏と菅原氏がともに土師はじ氏出身の同族だという歴史的事実を黙殺し、皇族の子孫と位置付けてしまうのです。なぜ捏造と言えるかについては今井源衛「大江音人阿保親王子息説をめぐって」『王朝の物語と漢詩文』(笠間書院 1990)をお読み下さい。

 そのくせ匡房は結構道真を意識しています。「道真の漢詩は人が真似できるものではない」とか言いながら、道真を道具に自分の作品の素晴しさを自慢していたり。まあ当時の文人にとっては天神は「文道の大祖」なので意識するのは当然なのですが、道具にしたの、一度きりじゃないんですよね……。

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