山陰亭

原文解説口語訳

『菅家文草』04:267

九日、偶吟  九日、たまたま吟ず

客中三見菊花開  客中三たび見る 菊花の開くことを
只有重陽毎度来  ただ重陽のみ有りて 毎度来たる
今日低頭思昔日  今日かうべれて昔日せきじつを思へば
紫宸殿下賜恩盃  紫宸殿ししんでん下に恩盃をたまへり

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解説

 03:197「重陽の日、府衙にて小飲す」に記した通り、赴任1年目には部下と重陽の宴を開いた道真ですが、翌年には重陽宴を催した形跡がありません。2週間ほど前に光孝天皇が崩御したことを受けて取り止めたものと思われます。そして3年目の仁和4(888)年9月9日に詠んだのがこの詩ですが、「偶吟」と題し、「人間の都合とはお構いなしに、重陽は毎年訪れる」という口ぶりから判断するに、酒宴はなかったようです。宮中でも重陽宴は開かれませんでした(『日本紀略』同日条)。
 過去を回想する際に紫宸殿ししんでんの名が出てくるのは、重陽宴の会場が主に紫宸殿だったからですが、都の外で迎えた重陽は、道真にとって疎外感を増すばかりで、宴があってもなくてもあまり違いはありませんでした。ちょうどこの頃、弟子の一人で、春の文章生もんじょうしょう選抜試験に合格した文室時実ふんやのときざね(40歳)が讃岐に滞在していましたが、道真は重陽をひとりきりで過ごしたのでしょう。

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口語訳

(九月)九日、たまたま詩を詠む

赴任中(この讃岐の地で) 三度菊の花が咲くのを見た
(宮中での宴に参加しなくても)重陽だけは毎年やって来る
今日うなだれて昔の日々を思うと
紫宸殿で(帝から)恩盃を頂いたのであった

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