山陰亭

高尾天神社(9KB)
高尾天神社

所在地:東京都八王子市初沢町
 交通:京王電鉄京王線・高尾駅下車
    JR中央線・高尾駅下車

そこに銅像があるからだ

そこに銅像があるからだ

(傾向)これを「銅像萌え」と呼ぶのなら、確かにそうなのだろう。
(対策)しかしとにかく首が痛いのはどうにかならないものか。

 新宿駅から京王線へ。JRと競合する区間のため、距離に比べて運賃が安いことに驚きつつ、切符を買って高尾山口行きに乗車。
 50分後、終点の一駅手前で下車し、南口の自動改札を抜ける。……はずが、何も考えずに抜けた左側の改札機はJRとの乗り換え専用だったらしく、いきなり駅の外に出られなくなる。駅員のいる改札口を探し、事情を説明してどうにかして脱出。
 新宿駅なんかだと道に迷う前提で周囲の案内表示を常に確認していますが、まさかこんなところでやらかすとは。

 駅の南側に「高尾みころも霊堂」という金色の巨大な仏塔のような建物がありますので、まずはそこを目指します。駅から徒歩10分ほどで御衣みころも公園に着きますので、広場の右手にある石段を上ります。登り切った先、周囲をうっそうとした林に囲まれた場所にあるのが高尾天神社。御衣公園という名前も、「恩賜おんし 御衣ぎょい は今ここに在り」(「九月十日」)に由来します。

 周囲と区切られていない境内は、整備はそれなりに行き届いている様子とはいえ、社殿そのものは奥の方にひっそりとある状態で、さほど目立ちません。それとは反対に大いに存在感を放つのが、手前にある道真の銅像。いかにも近代彫刻らしい写実主義的な立像で、銅像部分だけで4m85cm。実際はそれ以上の高さの台座の上に乗っており、ひたすら下から見上げる展開になります。

正面・左手前・右後方から見た道真の銅像(7KB)
正面・左手前・右後方から見た道真の銅像

 これは彫刻家渡辺長男おさお (1874〜1952)の作品で、民間プロジェクトとして彼が注文を受けたものの、関東大震災で計画が頓挫し、渡辺が私財を投じて完成させたという経緯があります。さらに、皇居前広場にある楠木正成の騎馬像(作者は渡辺の舅である岡崎雪聲せっせいと対にしようとして発案されたはずが、設置場所をめぐっても色々紆余曲折があったようで、1930年に完成してから現在の場所に置かれるまで、6年あまりの月日を要しています。いわば流浪の存在。

 正直なところ、あまりに定型化されすぎて道真さんの銅像やら彫刻やらには関心がなかったのですが、久留米の水田天満宮に行った時、近代のリアリズム彫刻に開眼してしまいまして、「どこそこに道真の像がある」という話になっても、束帯が糊でガチガチに固められていないとか、袖が短いとか、きょ(下着のすそ)が長々と尾を引いていないとか、冠が丸いとか、そういう部分を色々と細かく確認してしまう訳です。こちらの像はそれらの条件をきちんと満たしています。座像じゃなくて立像というのも、個人的にはポイント高し。

 すごいすごいと盛り上がりながら周囲をめぐり、上を向いてシャッターを切り続けるうち、だんだん気分が悪くなってくる。書店でも時々起きる症状なので、単純に姿勢の問題で、「変な気に当てられた」とかいう問題ではありません。もともと血圧低い方ですし。
 しかし位置が高すぎて、どうにもこうにも肝腎カナメの顔が見えない。戦前の人にとってなじみ深かったはずの5円札紙幣の肖像画がどう頑張っても格好良いとは思えない絵なので、顔がしっかり見えたところで、「貧相」とか「神経質そう」とかいう感想になってしまうのでしょうが、作者に向かって「台はもっと現実的な高さにして下さい」と突っ込んだとか、しないとか。

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