山陰亭

北野天満宮拝殿(8KB)
北野天満宮拝殿(国宝)

所在地:京都市上京区馬喰町
 交通:京都市バス・北野天満宮前バス停下車

文道の大祖、風月の本主神様はひとりじゃない?能楽「老松」能楽「輪蔵」
耳の痛いおみくじ何か書くもの持ってます?怒涛の天神さん紅葉の苑で逢いましょう
郵便局に進路を取れ!衣食足りて礼節を知る

文道の大祖、風月の本主

(傾向)定点観測の隠れた楽しみ。
(対策)上を向いて歩こう。

 大きな駅から市バスで一直線。立命館大学行きなら確実に経由します。運動不足ぎみなら阪急の西院さいいん駅で下車し、JRの円町えんまち駅の東を経由して西大路にしおおじ通を北へ歩くこと40分。創建については「人が神になる日」に詳しいので、そちらをご参照下さい。

 大きな石鳥居を抜けると石畳の参道が続きますが、突き当たりに大きな門があります。これが楼門で、そのまま先に進む人が多いのですが、忘れずに左横をご覧下さい。季節に応じた和歌や漢詩の一節が掲示されています。最近はもっぱら和歌に偏っております。
 あわせて、楼門に掲げられた額も必ず確認しておきましょう。額には「文道大祖/風月本主(文道の大祖/風月の本主)」と書かれていますが、これは平安時代中期の学者大江匡衡おおえのまさひら願文がんもんに見える対句を引いたもの(『本朝文粋』13:392「北野天神に御幣并びに種種の物を供ふるの文」)。原文は「就中なかんづく、文道大祖、風月本主也」と、「」の字を挟みます。「風月」は詩心をかきたてるもののことですから、平安時代を代表する漢詩文作家だった道真に捧げるのにふさわしい言葉ですね。

楼門(左)と三光門(右)(16KB)
楼門(左)と三光門(右)

 さらに奥にあるのが三光門で、ここを抜けて拝殿に向かいます。
 2005年に拝殿前のスペースが特殊鋪装されました。バリアフリー仕様とのことですし、雨上がりの地面を歩いてスーツを汚した経験もありますが、靴の底で感じる平坦さと硬さはあまり好きではありません。中央だけならもろ手を挙げて大賛成! でしょうが、明らかに風情がなくなってしまいましたねぇ……。

 とりあえずお参りしておみくじを引き、右側の出入口から出て裏側をグルっと一周します。石の間(本殿と拝殿の連結部)を背伸びして眺めることも。と言いますか、扉の位置が高くてよほど背が高くないと内部が見えないんです。正面からも見えないので、神事を見たくとも見えない……。別に隠してるとも思えないんですが、神事見物を放り出して縁日に流れることが常態化しつつあります(苦笑)。

外から見た石の間部分(8KB)
外から見た石の間部分

 実用性の高い「あるもの」がないことに、最近ふと気がつきました。それはガイドツアー。楼門前で待ち合わせて、伴氏社ばんししゃまで戻り、楼門から手水所(と赤目の臥牛)に行き、反時計回りに文子社・火之御子社等の末社をめぐり、正面に回って老松社・福部社・三光門を抜けて拝殿にお参り(ついでに授与所でおみくじやら何やら)。1時間もかければ天神信仰の基礎知識は身につくと思うんですが、どうでしょうか? 週末や縁日に合わせて博物館の展示品案内の要領で催せば、結構ニーズはあるはずですよ。そもそも興味がなければ来ないでしょうし。

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神様はひとりじゃない?

(傾向)世の中は意外性に満ちている。
(対策)単純に物事を考えちゃいけませんよ、ということ。

 「天満宮の祭神は菅原道真です」
 確かにその通り。ですが北野天満宮の場合、一緒に奥さんと息子も祭られています。本殿裏側には父親と祖父、少し離れて妻の父親。ついでに境内を探し回れば子孫の社まで見つかります。他氏族の人も含めれば、ここの神社で祭られている実在の人物は合計何名になるでしょう? 試算では約20人でした。

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能楽「老松」

(傾向)常識をもみほぐす。
(対策)行ったついでに提灯をチェック。

 天神=梅、という固定概念をお持ちの方が多いのですが、北野天満宮の提灯を見ると、松も神紋としてあしらわれています。拝殿前にも左右に梅と松を植えていますしね。背丈が高い常緑樹ゆえ、しばしば天下る神の依代よりしろと見なされる松が天神信仰と結び付くのは、天神の託宣通り北野馬場に一夜にして松が生えた、という伝承によります。今でも参道に沿って随所に松が生えています。普通の日に行くと数の多さに驚くのではないでしょうか? そして三光門の手前左側に「老松おいまつ社」という祠がありますが、ここの神様が登場するのが「老松」です。

 京都梅津(右京区)在住の人物が、北野での霊夢に従い筑紫安楽寺(=太宰府天満宮)に参詣した。境内にいた二人連れをつかまえて飛梅の所在を尋ねると、「御神木なら『紅梅殿』と呼ぶべきですよ」といなされる。話は梅の傍に祀られる老松に及び、「松も梅も天神の御愛樹として末社に祀られている」と告げ、二人は姿を消してしまう。そのまま未明まで境内で待っていると、老松の精が現れて御代をことほぐのだった。

 「菅原伝授手習鑑」の冒頭も、梅松の故事から始まっているのですが、さもありなんといった感じです。しかし太宰府の拝殿の前に植えられているのは左右ともに梅なんですよね。そこで古絵図を眺めてみれば、老松社は福部ふくべ 社(これも北野のものは狂言「福部の神」の題材になっています)と一緒に本殿の裏手にありました。そして飛梅の隣には「代々木」の文字。何なんでしょう、代々木って? 予備校ではないと思いますが……。

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能楽「輪蔵」

(傾向)予備知識抜きでは理解不能な物語。
(対策)まず「輪蔵」とは何か、把握しましょう。

影向の松(4KB)
影向の松

 大鳥居付近の参道の右脇に、「影向ようごうの松」があります。初雪の日に天神が現れるとされる神木ですが、室町時代、その側には経王堂きょうおうどうが建てられ、輪蔵りんぞうも作られました。これは中国で傅翕ふきゅうという人物が考案した装置で、箱に入れた経典を八角形の回転式書架に収めたもの。一回転させると一回経典を読んだ功徳が得られるとされます(写真は荏柄天神社を参照)。で、この輪蔵は謡曲の題材にもなっているのですね。「老松」とは逆に、大宰府発北野着の物語です。

 大宰府の僧が北野天満宮に来て、境内の輪蔵を拝していると、老人がやって来た。彼は輪蔵に収められた一切経を守護する火天で、長年仏道に精進してきた僧侶の姿勢を賞賛し、消えた。夕方を迎えた頃、異香薫じ、音楽が響き、紫雲がたなびき、花弁が降る中、厨子が開き、中から輪蔵の本尊である傅翕親子が現れた。傅翕は僧侶に一切経の入った箱を渡し、舞い始める。火天も雲中から舞い降りて輪蔵を回す。僧侶が一切経を披見し終えた後、彼等は一切経の箱を神前に運び、天上へと去っていった。
大報恩寺経王堂(7KB)
大報恩寺経王堂

 むろん輪蔵は現存しませんが、造営当時の一切経や傅翕親子の彫像などは、近くの大報恩寺(千本釈迦堂)に残っています。

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耳の痛いおみくじ

(傾向)吉凶ばかり問題にする傾向に一石。
(対策)考えようで良くも悪くもなる。

 とにかく重い金属製の六角柱をガシャガシャ振っていると、細い金属棒が一本。
 ここのおみくじ(100円)は道真さんの漢詩の一節を読み解くという珍しいもので、いわば「自社製」なのですが、これが結構痛いところをついてくる。おかげで持って帰る習慣がつきました。読み返して反省の材料にしようと。しかし受験間際はご遠慮下さい。凶(半凶まであります)が出ても責任持てませんので。

 最近デザインが大幅に変更されました。サイズ自体は同じなのですが、紙も印刷も赤系統の色っぽいつくりになっています。文章は文語から口語へ、項目別の内容はより詳細なものに。また同じ番号の場合、文言自体はほぼ同じで解説も似ているものの、吉凶は全然違います。
 むしろ今のは吉凶で判断しないほうがいいかもしれません。良いのは辛口、悪いのはフォローつき、と額面通りには取れない書きぶりです。肝腎の学業については、「ひたすら努力すれば叶う」という趣旨で終始一貫しているのが意味深長。

 また使用されている詩句について補足しますと、第一番の「月輝いて清雪のごとし」が「月夜に梅花を見る」の「月いて雪のごとし」のリメイクであるように、案外柔軟に解釈しているようです。詳しい調査結果は「おみくじ出典詮索計画」を御覧下さい。
 楼門の詩句もそうですけど、漢文扱える人がスタッフにいないと、こういう芸当できませんよね。

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何か書くもの持ってます?

(傾向)最近の人は「味のある」字ばかり。
(対策)持っていくしかないでしょう。

 ここの絵馬、内容を見ると進学のための受験が9割で資格試験(国家資格がほとんど)がちらほら、就職試験や学業成就や安産祈願がごくたまに混じっているという感じで、「受験の」神様そのものですね。
 ここまで具体的な願望が集中する状況もそうそうないのではないでしょうか。

絵馬書所のお習字セット(左)と絵馬掛所(右)(15KB)
絵馬書所のお習字セット(左)と絵馬掛所(右)

 そこで具体的かつ明示的な絵馬を書こうとすると、目の前には筆と墨。さすが書道の神様! と言いたいところですが、現代っ子には大変。細い油性マジックを持って行きましょう。筆の方が味があるんですが、つまるところ家で時間をかけて書けということになりかねませんから。
 しかし、これでもかこれでもかっていくつも受験先並記するのってどうなんでしょう? 本命さえ受かれば充分だと思うんですけど……。

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怒涛の天神さん

(傾向)縁日は楽しい、しかし対処を間違えるとしんどい。
(対策)何事もアウトローが一番。

 普段は地元の人や修学旅行生が訪れる程度で穏やかな境内ですが、毎月25日は「天神さん」と呼ばれる縁日なので非常にごった返します。
 初めて行くなら遊べるこの日。参道の石畳にそって屋台が並び、西の東向観音前には植木市が展開し、東側には古道具屋や古着屋が揃い、境内では宝物館が開きます。料金は大人300円、中高生250円(以前はこんな料金区分なかったんですが、修学旅行生を意識しているのでしょう)、子供150円。時間は9時から16時。10名以上なら25日以外も公開するそうで、事前に相談されると良いでしょう。
 中でも1月の初天神、2月の梅花祭、12月のしまい天神あたりは、特に混雑します。最初から参道を使わないことしか対策はありませんが、こうすると屋台がのぞけない。
 さらに要注意なのが帰りのバス。三条京阪・四条河原町・京都駅と、駅へ向かう便は多々ありますが、遅れて混んででもう大変。まさに行きは良い良い、帰りは……、の世界に陥ります。円町まで歩いてJRに乗るか、ひとつ手前の北野白梅町まで戻るのが無難ですよ。

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紅葉の苑で逢いましょう

(傾向)想像よりもモノは良いです。
(対策)あともうちょっと安ければ嬉しいのですけれど。

 北野天満宮と言えば2月〜3月中旬の梅苑公開が有名ですが、もうひとつ、11月初め〜12月中旬のもみじ苑公開も2007年から始まりました。隠れた名所として地元では知られていたようですが、環境整備もしてしまいましたので、茶菓子とセットで入苑料(600円)が必要です。

日中のもみじ苑(13KB)
日中のもみじ苑 ※左岸がお土居

 境内の西側に、豊臣秀吉が洛中と洛外の境界線として築かせた「お土居」と呼ばれる堤が残っており、そのすぐ西を流れる紙屋川とセットで散策コースになっています。ここに自生している紅葉を、夜間はライトアップまでして鑑賞しようというもの。
 正直言って紅葉そのものは日中に見た方が映えると思うのですが、夜は夜で竹林とのコントラストが見事です。の末ごとに紅葉照らせる」って、こういう状態を指すのでしょうか。境内には「このたびは...」の石碑もありますよ。

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郵便局に進路を取れ!

(傾向)進路を取って笑いを取るのです。
(対策)通常は小粋のレベルで済みますので御安心を。

 拝殿を右に抜けた先に東門がありますが、そのまま東南方向へ進むと上七軒かみしちけんという花屋街に入ります。右ばかり見ながら老松おいまつ(後述)の前を通り過ぎ、少し歩いた先にあるのが北野郵便局。外観が町家なので少々分かりにくいかも知れません。

 ここになぜ郵便局が出てくるの? と思うなかれ。一部の郵便局には「風景印」という御当地モノを描いたオリジナル消印があり、とりわけ京都は種類が豊富です。臨時販売所限定(レアの極致!)の、7月15日「祇園祭スタンプ」、10月22日「時代祭スタンプ」なんてのもありました(葵祭バージョンは未確認)。で、北野局は文字通り北野天満宮バージョンなのです。あらかじめ郵便物を用意しておき、窓口で風景印をリクエストすれば、料金を確認した上で押してくれます。自分用なら官製ハガキに自分の住所を書いてしまうか、コレクターっぽく台紙に切手を貼って押してもらうかになりますね。
 筆者の場合、分かる人に分かる冗談を効かせたくてこの消印を使うので、必然的に宛先に「○○天満宮」を冠するものが混じることとなり、押す側からすれば、すこぶる怪しいことこの上ありません(笑)。

 そして「週末しか京都行けないの」という人にとっておきの裏技。郵便局前のポストに投函する際、「北野局の風景印でお願いします」と書いたメモを付けてしまうのです。実際のところ、収集は近くの西陣郵便局が担当しているのですが、きちんと指示しておけば通りました。

 ただし、一つ厄介な問題が。北野っぽい消印なら北野っぽい絵葉書を合わせたいというのが心情なのに、手頃な値段でいい感じの絵葉書が近辺では売っていないのです。個人的には「菅原伝授手習鑑」の芝居絵や承久本天神縁起を印刷したものを何枚か持っていますが、あくまでコレクション用で人に渡す分はありませんし、今でも入手できる確証もないですし。
 社殿や境内の風景を水彩画(日本画や版画という手もありますね)で描いたものが100〜150円程度であれば良いのですけどね。……いっそのこと、ナイならナイで、自分で作ってしまいましょうか(笑)。

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衣食足りて礼節を知る

(傾向)旅行番組ならメインはこっち。
(対策)数が多いから、まず情報収集して候補を絞った方がいいですよ。

 お土産に食べ物関係はどうかなと、社報を見てたらあるわあるわ。店舗自体は天満宮の東側(御前通)や鳥居前に集中しています。衣類の方は縁日に行けば即解決でしょう(笑)。
 まず和菓子関係。上七軒にある老松おいまつ。北野天神ゆかりの能楽作品を店名に持つ老舗です。近所の洋菓子屋グレース・セゾンも系列店です。座敷でリッチに京料理を味わうならおかもと紅梅庵。やきもちの天神堂。3軒とも東門の近く。赤飯まんじゅう(赤飯入りの餅)の三平餅。御前通を挟んで横。京酒まん(季節限定)や北野梅林(白餡入りの小さな餅)の船屋秋月。東隣です。粟餅の澤屋。道路南側のバス停のそば(=天満宮と道路挟んで向かい側)。次に京都らしいおとうふ。食事もできるとようけ茶屋。石鳥居のお向かい。天神とうふの北浦豆腐店。船屋秋月の北にあります。紅梅そばの田舎亭。北側(駅方面)のバス停の近く。太い一本うどん(実際は2本)のたわらや。船屋秋月から御前通を少し南下。
 天満宮から南東に延びる道を行けば、今度は商店街に着きます。毎月25日に境内で出張販売している長五郎餅もこの中にあります。どこまで続くのかと思うほどくねくね曲がりながら延びる商店街です。

 ……とまあ、列挙だけしてお茶を濁すのもどうかと思い、最近ちびちびと食べてます。で、その結果報告をば。個人的に推薦したいのは、まさ活・ひだまり・小さなおもひで・クリケットあたりでしょう。次に狙ってるのは上七軒のグリル彌兵衛。外食するとよく「もどき」が出るせいか、洋食ってあんまり食べないんですよねー。高いし。
 それから、お茶するには少々厳しいエリアだということも先にお断りしておきます。澤屋で煎茶をすするのでもない限り、甘味とお茶で千円いきますので。あとは北野白梅町にケンタッキーがある程度。(マクドナルドはありません。)あー、軽くつまみながら無意味にボーッとできる場所が欲しい……。

 ただ、正直な話、西陣まで足を運ばなくても土産になりそうなものは京都市中の百貨店に結構並んでいるんです。気がついただけでも、老松やとようけ屋山本(豆腐・油揚げ・つまみ湯葉のみ)は大丸京都店(四条高倉=四条烏丸から少し東)の地階、船屋秋月の北野梅林と長五郎餅は高島屋京都店(四条河原町)の地階和菓子売場やポルタ(京都駅前の地下街)の京都土産エリア(老松も)、藤野は京都伊勢丹(京都駅ビル)の地下2階食品売場(ただし豆腐など生もののみ)、長五郎餅は週2回程度地下1階で扱っています。さすがにたこ焼きや粟餅はないでしょうが、これではお土産の意味が薄れるではありませんか、うぅ(泣)。

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