対鏡 鏡に
四十四年人 四十四年の人
生涯未老身 生涯は老いたる身ならず
我心無所忌 我が心
対鏡欲相親 鏡に対ひ
半面分明見 半面
双眉斗頓頻
此愁何以故
照得白毛新 照し得たり
自疑鏡浮翳 自ら疑ふらくは 鏡
再三拭去塵 再三
塵消光更信 塵消えて 光
知不失其真 知りぬ
未滅胸中火
空銜口上銀 空しく
意猶如少日
貌已非昔春
正五位雖貴
二千石雖珍
悔来手開匣
無故損精神
鏡に向かい合う
四十四歳の人
人生は年老いた身ではない
心に 忌まわしいことはなく
鏡に向かい (映る姿に)親しもうとする
顔半分がはっきりと見え
その途端に両眉をひそめる
この憂鬱は 何ゆえか
映ったのは 新たに生じた白い
鏡がくもったのかと思い
二度三度と 塵をぬぐい去る
(すると)塵が消えて 光がより明らかになる
気がついた (鏡は)真実を失っていないのだと
消えていない 胸の内の火は
(しかし)うつろに含むは 口の上の銀(色の髭)
気持ちは今でも若かりし日のようだが
顔つきはもはや昔の姿ではない
正五位という位は高貴だが
国司という官職は貴重だが
後悔している 自ら鏡箱を開いたことを
無意味に心を萎えさせてしまった