苦日長〈十六韻〉 日の長きに苦しむ〈十六韻〉
少日為秀才
光陰常不給 光陰
朋交絶言笑
妻子廃親習 妻子に
壮年為侍郎 壮年 侍郎と
暁出逮昏入
随日東西走 日に
承顔左右揖 顔を
結綬与垂帷
孜孜又汲汲
栄華心剋念 栄華 心に
名利手偏執 名利 手に
当時殊所苦
霜露変何急
忽忝専城任
空為中路泣 空しく
吾黨別三千
吾齢近五十 吾が
政厳人不到 政
衙掩吏無集
茅屋独眠居
蕪庭閑嘯立
眠疲也嘯倦 眠るにも疲れ
歎息而嗚悒 歎息して
為客四年来 客と
在官一秩及 官に
此時最攸患
烏兎駐如〓
日長或日短 日長く
身騰或身蟄 身
自然一生事 自然なり 一生の事
用意不相襲
日が長いことに苦しむ〈十六韻〉
若い頃に
時間が いつも足りなかった
友人付き合いで談笑することもなく
妻子とも親しくしなかった(それほど寸暇を惜しんで勉強に明け暮れた)
三十代で
明け方に(家を)出て 夕方になって帰宅した
太陽を追って 東西に走り
顔色を窺って 左右に会釈した(かくも朝から晩まで仕事に忙殺された)
官職に就き 学問に励み
(何事にも)精勤し そしてあくせくしていた
栄達を 胸に刻みつけ
名声に 囚われていた
その頃 特に苦しんだのは
霜や露が 急に移りゆくこと(時世の移り変わりの激しいこと)
突然(讃岐国の)国司に任じられ
それゆえいたずらに途中で泣いた
大勢の弟子達と別れ
年齢は五十近くになった
政治が厳格なので (地元の)人々は来ない
役所が閉まれば 役人は集まらない(仕事が終わればさっさと帰ってしまう)
あばら屋に ひとり眠って過ごし
荒れた庭に ゆるりと詩を吟じて立つ
眠るのも疲れ また吟ずるのも飽き
溜め息をついて むせび泣く
(都を離れ)旅人となって 四年間
(国司の)官にあって 一期に及ぶ
(任期満了を控えた)この時 最も思い悩む事は
日や月が止まったまま繋がれているかのように時間が流れないことだ
日が長く あるいは日が短く(感じられ)
身体が躍り上がり あるいは身体が地下に隠れる(ように思われる)
人生とは そのようなものなのだ
(むやみに)心を働かせて (心労を)重ねないようにしよう