九月十日
去年今夜侍清涼 去年の今夜
〈御在所殿名。〉 〈御在所の殿の名なり。〉
秋思詩篇独断腸
〈勅賜「秋思」賦之。 〈
臣詩多述所憤。〉
恩賜御衣今在此
捧持毎日拝餘香
〈宴終晩頭賜御衣。 〈宴終はり晩頭に御衣を
今随身在笥中。 今身に随ひ
故云。〉
九月十日
昨年の今夜(十日)
〈「清涼」は帝のいらっしゃる建物の名前である。〉
「秋思」の詩篇に ひとり痛切な哀しみを詠んだのだった
〈
私の詩はねんごろに秋に思い乱れるさまを述べていた。〉
その時帝から賜わった御衣は今ここにあり
捧げ持っては日々残り香を聞くのである
〈宴が終わって宵に御衣を賜わった。
今自分の身に随って都を去り、
だからこう述べるのである。〉