官舎幽趣〈六韻〉 官舎の幽趣〈六韻〉
郭中不得避諠〓 郭中 諠〓を避くることを得ざれども
遇境幽閑自足誇 境に遇はば 幽閑 自ら誇るに足る
秋雨湿庭潮落地 秋雨 庭を湿す 潮の落つる地
暮煙〓屋潤深家 暮煙 屋を〓る 潤ひの深き家
此時傲吏思荘叟 此の時 傲吏 荘叟を思ふ
随処空王事尺迦 処に随ひて 空王 尺迦に事ふ
依病扶持藜旧杖 病に依りて扶持す 藜の旧き杖
忘愁吟詠菊残花 愁ひを忘れて吟詠す 菊の残れる花
餐支月俸恩無極 餐は月俸に支へられ 恩極み無けれども
衣苦風寒分有涯 衣は風の寒きに苦しみ 分涯有り
忘却是身偏用意 是の身を忘却して 偏に意を用ゐれば
優於誼舎在長沙 誼が舎の長沙に在りしよりも優る
官舎での奥深い情趣〈六韻〉
城下では 喧噪から逃れることはできないが
この境地に出会うと 奥深く静かな光景は自分でも充分自慢できる
秋雨が庭を濡らすのは 海水の垂れる土地
夕暮れの靄が建物を取り巻くのは 湿気のこもる家
こんな時 傲慢な役人だった 荘子を思う
時に応じて あらゆる物は実体がないと説いた 釈迦に仕える
病気で助けられるのは あかざの(茎でできた)古びた杖
憂愁を忘れて詠うのは 時節遅れで咲いた菊の花
食事は月の給料に保たれ 恩恵は限りないが
装束は寒風に苦しめられ 身の程には限度がある
(しかしこんな)身の上を忘れ去って ひたすら思いをめぐらせば
(左遷された)賈誼の公舎が(湿気の多い)長沙の地にあったことよりは勝っている
http://michiza.net/jcp/jcpkb504.shtml