燈滅、二絶(1)
脂膏先尽不因風
殊恨光無一夜通
難得灰心兼晦跡
寒窓起就月明中
延喜2(902)年の秋、夜更けに大宰府南館の一室に座し、道真は書物をひもといていました。ところが、燭台の油が尽きてしまい、続きを読むこともままならなくなってしまいました。つまり一晩中ともし続けるだけの油が手に入らなかったのですが、裏を返せば、明かりさえあれば夜明けまで起き続けていたということになります。学者としての性なのか、そこまで深刻な不眠症を抱えていたのか、その点については御想像にお任せしましょう。
今回は『老子』『荘子』『文選』『白氏文集』に何らかの仏典あたりを加えたかと想定できるでしょうか。いずれにしろ、限られた冊数を繰り返し読むことを余儀なくされますが、それでも道真は読書を止めようとはしませんでした。何しろ、書物に向かい合う限り、余計なことを考えなくて済むのですから。
しかし肝腎の照明が切れれば手の打ちようがありません。
いくら周囲が暗くなったところで、燃え尽きた灰のように心の中を空っぽにすることも、姿を本当にくらますこともできるはずがありません。仕方なく書物を持ったまま窓辺に移り、月の光を頼りにもう一度読みかけの文に目を落とすのでした。
油が先に尽きたのは 風のせいではない(油自体が尽きたからだ)
とりわけ恨めしいのは 一晩中照らす光がないこと
心を燃え尽きた灰のように空虚な状態にする事も 姿を隠す事もできない
冷え冷えとした窓辺に起き出し 明るい月のもとに身を寄せる