新聞小説の単行本。結論から先に言えば、道真よりも彼の義父である
別解を挙げるなら夢主・夢解父子の物語。この2人については、盗賊の頭で女装の達人だということが分かるくらいで、心理描写がないために一切の行動に対する動機は最後まで不明だったりするんですが……。
同刻同場所に生まれた2人、道真と夢解が歴史の表側と裏側にそれぞれ関わっていく話、のはずですが、道真の側にいて唯一真相を知っている忠臣(主人公より先に登場しただけある)と、必死になって権力にあらがう藤原明子(藤原良房の娘で文徳天皇女御)の2人のウェイトが結構高いのです。
タイトルの「巨門星」ですが、丑年生まれを支配する星だという話は「九条殿遺誡」(平安中期成立)の記述に由来します。作者自身は星の名前に「夜の王宮楼門高くに仰ぐ巨星」をかけたという説明しかしてませんが、実は『菅家文草』にもこの言葉は出てきます。忠臣の漢詩集である『田氏家集』を読んでいる程ですから、承知の上でつけたんでしょう。
推測は続きます。
今後の展望。本当は1年弱の連載で一生を書こうとしたのに全然収まらなかった……とかで(苦笑)、あとがきでも続きを書きたいとの記述が。確かにこのまま放っておくのは、推理小説を書きかけにしたようなもので、物書きの面目が立ちません。
物語の展開としては、夢解が道真の怨霊騒ぎを演じることになるはずですが、文庫化に際し副題を変えたあたり、続編刊行は難しそうです。