見渤海裴大使真図、有感 渤海裴大使が真図を見て、感有り
自送裴公万里行 裴公が万里の行を送りてより
相思毎夜夢難成 相思ひて夜毎に夢成り難し
真図対我無詩興 真図 我に対へども 詩興無し
恨写衣冠不写情 恨むらくは 衣冠のみ写して情を写さざりしことを
元慶7(883)年、帰国した渤海大使裴〓を描いた肖像画を前にして詠んだ詩です。時に道真39歳。
魏の曹植に比される即吟の達人相手に、事前準備なし・加筆修正なしの真剣勝負に挑んですっかり意気投合したことは「余、近ごろ『詩情怨』一篇を叙べ、...(2)」の解説にも書きましたが、離京の日が近づいたある日、道真は絵師を呼び、せめてものよすがとして大使の肖像画を描かせたようです。
それからしばらく寂しくて眠れぬ日が続き、ふと自宅で肖像画を掛けてみたのですが、どうもしっくりきません。生身ではなく平面の人間では、詩を詠んだところで、いくら待っても本韻で詩が返ってくるはずもありませんから。
精魂を使い果たし、すっかり燃え尽きた感のある道真の心情が窺える詩です。
渤海大使裴〓氏の肖像画を見、思うところあって(詠む)
(帰国する)裴氏の長旅を見送って以来
(彼を)思って(眠れず)毎晩夢も見られない
肖像画は 私に向かい合うが (絵が相手では)詩を詠む気にはならない
容姿だけ写して心まで写さなかったことが恨めしい
http://michiza.net/jcp/jcpkb123.shtml