雪夜、思家竹〈十二韻〉 雪の夜、家なる竹を思ふ〈十二韻〉
自我忽遷去 我
此君遠離別
西府与東籬
関山消息絶
非唯地乖限
遭逢天惨烈 天の
憫黙不能眠
紛紛専夜雪
近看白屋埋 近く
遥知碧鮮折 遥かに知る
家僕早逃散 家僕は早く
凌寒誰掃撤 寒きを
抱直自低迷
含貞空破裂
長者好漁竿 長きは
悔不早裁截
短者宜書簡 短きは書簡に
妬不先編列
提簡且垂竿
吾生以堪悦
千万言無効
漣〓亦嗚咽
縦不得扶持
其奈後凋節
延喜元(901)年冬、雪の降り積もる夜に自宅の竹に思いを馳せて詠んだ詩です。下三連が1回(第2句)、二四不同でない箇所が3つ(第5句・第10句・第22句)ある五言古体詩で、押韻は入声九屑韻。
作品名 | 形式 | 平水韻による韻目 |
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477「読楽天北窓三友詩」 | 七言 二十八韻 | 上平声 四支韻/上平声 五微韻 |
479「読開元詔書」 | 五言 八韻 | 下平声 八庚韻/下平声 九青韻 |
483「慰少男女」 | 五言 十韻 | 去声 六御韻 |
486「哭奥州藤使君」 | 五言 四十韻 | 上声 四紙韻/上声 五尾韻 |
490「雪夜思家竹」 | 五言 十二韻 | 入声 九屑韻 |
500「雨夜」 | 五言 十四韻 | 上声 一三阮韻/上声 一四旱韻/上声 一五潸韻 |
502「傷野大夫」 | 七言 五韻 | 上平声 七虞韻 |
『
漢詩のルールとして、偶数句末(七言詩の場合は第一句末も)の文字を同じ韻の文字で揃える「
便宜上上の表では平水韻による分類を載せましたが、隣接する
そして、うち4首が
道真は庭の何箇所かに竹を植えていました。これは以前住んでいた家から左京五条に転居した時に根分けしたもので(『菅家文草』02:181「夏の日、四絶(3) 新たなる竹」)、寛平2(890)年、
ところが、延喜元(901)年2月1日に都を追われ、かって王徽之が偏愛した「
誰にも世話されぬまま放置された竹は、まっすぐ伸びようとしても、雪が積もれば垂れ下がり、貞節の情をもってしても、重みを支え切れずに割れるばかり。読書の合間に釣りを楽しむ隠者の生活を渇望しても、時すでに遅し。自分の挫折した姿を象徴するかのごとく折れた竹を想像すると、やり切れなくて泣くしかありませんでした。ただそれでも、冬でも青いままでいようとする竹のように、逆境にあっても自身の中心に残る志を認識するところに、彼の
雪の夜、自宅の竹に思いを馳せる〈十二韻〉
私が 突然追放されて以来
(自宅の)竹と遠く離ればなれになってしまった
西の大宰府と 東の(自宅の)
関所と山(に阻まれ) 音信も絶えてしまった
ただ距離が離れているだけではない
(お互い)極寒の天気に遭遇してしまったのだ
静かに憂い 眠ることもできず
ちらちらと(降る) 夜通しの雪
近くでは貧居が(雪に)埋もれているのが見え
遠くでは青く色鮮やかな竹が(雪で)折れてしまったと知った
誰が(冬の)寒さをものとせず(積もった雪を)掃き去るのか
(竹が)無私の情を持していても おのずと低くさまよい
(竹が)貞節の心を抱いていても いたずらに割れてしまう
長いものは釣竿に適していたのに
早く切っておかなかったことが惜しい
短かいものは
予め綴っておかなかったことが恨めしい
竹簡をたずさえ さらに釣竿を垂らせば
私の人生は かくて喜ばしいものであったろう
あれこれ言ったところで甲斐もない
さめざめと涙を流し また
たとえ (竹を)支えてやることができなくとも
(他の草木が枯れた)後に枯れる貞節をどうしてやれば良いのだろう